リバーサル~堕ちた女上司~
この作品の発想のキッカケは、とある漫画で「自分は正常な判断をしているつもりなのに、実は操られていた」というシチュエーションを目にしたことでした。
それを読んだときに、「これは自分も是非やってみたい」と思い、短編用に落とし込んだ企画を立てたわけです。
企画の時点で、「ぐうたらな部下が、切れ者の女上司を堕とす」という基本の流れは考えていましたし、キャラの性格などもある程度は思いついていました。
綾音は、とにかく三十路を過ぎても恋人を作らない(できない)、生真面目で仕事一筋のキャラクターとして設定しました。恋愛に臆病なわけではないのですが、そういうことに感情のリソースを割くより仕事で男以上の成績を収めることに集中したい、と考えているキャラなわけです。
綾音がそこまで仕事に打ち込む理由付けには、少し悩みましたね。しかし、中学のとき「女子だから」という理由で理不尽な仕打ちを受けたため、という理由を思いついた時点で、だいたい問題はクリアできたと思いました。
創路のキャラについては、とにかく綾音が毛嫌いするタイプ、ということで考えましたね。毛嫌いしている相手なのに、催眠術をかけられて別人格を植えつけられ、恋人と思い込んで初めてを捧げてしまった。それをひょんなことで思い出したら、いったいどんな感情が湧いてくるか? しかし、そんな感情すらも仕組まれていたことだったら……。
まぁ、本編でも軽く触れているとおり、創路がそこまで強力な催眠をかけるに至るまでは、隙を見て何度となく綾音に催眠術をかけ、暗示を与えて催眠を深めていた、という流れがあります。ただ、それをすべて描くのは短編では不可能なので、必要な部分だけをピックアップした形になりました。これは、特選小説でこのネタをやろうと考えた時点で、最初から狙っていたことです。短編で、すべてを描くのが不可能なことは、最初から分かっていましたからね。
そうして、プロットにOKが出れば、あとは執筆するだけです。
今回に関しては、新型コロナウイルスによる非常事態宣言下という世間の異様な雰囲気以外は、特段の苦労はなかった感じですね。実際、〆切として指定された日よりも遥かに早く、原稿はできましたし。
しかし、好事魔多しと言いますか、ゲラが送られてきて愕然としました。「比留田」が「蛭田」だったり、「創路」が「掃除」だったりという、もっとも気をつけていたはずの漢字の変換ミスが、そこかしこのあったんですよ。何度もチェックしたのに、どうして見落としていたのか、と頭を抱えましたね。まぁ、担当氏の校正のおかげで事なきを得ましたけど。
本当に、校正の大切さをしみじみと痛感させられました。